続木 碧(つづき あお) 2023年4月(研究報告№061)
「巻頭の一言」
ダムや橋梁などの公共インフラに、顧客を呼び込む「インフラツーリズム」が、全国的に浸透してきました。特に日本独自の技術を生かした観光は、インバウンド(訪日客)にとって、新たな新鮮な興味を湧出させます。コロナウイルス感染が、ようやく、先が見えはじめた、今、日本経済の力強い再建のために、「インフラツーリズム」による「インバウンド」の強力な誘致が、極めて重要な局面になっています。
「地域創生」インフラツーリズム1.4倍 ダム・防災施設 観光資源に 稼ぐ力、民間連携がカギ 埼玉「神殿」年5万人
[調査研究報告本文(新聞記事紹介文)]
「地域創生」インフラツーリズム1.4倍 ダム・防災施設 観光資源に 稼ぐ力、民間連携がカギ 埼玉「神殿」年5万人
ここでは日本経済新聞の2023年3月25日1面の記事を紹介します。
[はじめに]
ダムや橋といった公共インフラに人を呼び込む「インフラツーリズム(注1)」が各地で浸透してきました。国土交通省がまとめた2022年度のツアー件数は、400件超と2016年比で、1.4倍になりました。既存の施設を生かして観光資源に乏しい地域でも、ほかにない魅力を発信できるのですが、集客には民間との連携が鍵を握ります。(2023年3月25日の日本経済新聞の1面(江口博文、岩崎高行)を参照引用して記述)。
[インフラツーリズムは集客を想定していなかった施設を含め、観光化を目指す]
国や自治体などの公的建造物の公開の目的は、主に広報や教育でした。民間では、関西電力黒部ダム(富山県)が60年前の完成当時から一般の人達の受け入れに積極的でした。毎年6~10月にダイナミックな観光放水があり、ダムを含む観光路「立山黒部アルペンルート」は、新型コロナウイルス禍の2019年度に、88万人が利用していました。
インフラツーズム(注1)は、集客を想定していなかった施設も含め、観光を目指しました。政府も2013年に観光立国実現の一環で推進を打ち出しました。防災や治水などに施設が果たす役割について一般の人々の理解を深めてもらうことを狙いました。
[首都圏外郭放水路]
首都圏外郭放水路(埼玉県春日井市)は、その先駆けの一つです。洪水を防ぐため2006年に完成した世界最大級の地下河川で、コンクリートの柱が林立する巨大空間は、「地下神殿」と称されています。管理者の国交省や春日井市などでつくる利用協議会と東武トップツアーズ(東京・墨田)が連携して、有料ツアーを2018年に開始しました。
平日だけでなく、土日祝日も見学でき、他社企画のツアーも受け入れます。参加料は1000円~4000円で、コースは地下神殿のみから、当初非公開だった深さ70メートルの第一立坑(たてこう)を含めて4種類になっています。予約で7~9割が埋まります。参加者は2022年に、コロナ禍の中で5万人を超えました。市内の飲食店も地下神殿にちなんだメニュー提供で集客効果を取り込みます。春日井市は放水路見学を、ふるさと納税の返礼品に加えました。
[国交省が集約したツアー件数]
国交省が集約したツアー件数(2022年11月時点)を都道府県別に見ますと、北海道が48件で最も多く、広島県(25件)、山形県、愛知県(各18件)が続いています。民間主導の割合は10.9%です。でも、観光資源として潜在力を引き出し、地域経済に結びつけるには、民間の活用が不可欠なのです。
[北海道室蘭港の東日本最大の吊り橋]
北海道の室蘭港にかかる東日本最大の吊り橋、白鳥大橋では2021年、主塔に船で渡り、100メートルの髙さから港を一望するツアーが始まりました。室蘭市と商工会議所、観光協会が主催し、地元クルーズ会社が運営します。管理者の国交省との協定で職員の同行はなく、柔軟な観光活用が実現しました。今後は周辺地域と協力した広域観光へつなげます。
[民間主催のツアー]
民間主催のツアーは山形県の6件が最多です。このうち5件は長井ダム(長井市)が舞台です。市街地からのアクセスが良い同ダムを「水の観光起点」と位置付ける市の要望を受け、国交省は2020年に、国管理のダムで初めて、この一帯で、民間の営業を認めました。これを受け、商業目的で水陸両用バスの運行や水上自転車など水辺体験の提供が始まりました。
同ダムで複数の事業を展開する地域連携DMO(観光地経営組織、注2)のやまがたアルカディア観光局(注3)の原田真悟さんは「積極的に営業活動をかけられるようになりました。利用者声を新事業に反映していきたい」と意気込んでいます。
[この項のまとめ]
首都圏外郭放水路は、外国人にも人気があります。日本独自技術を生かした日本ならではの観光は、インバウンド(注3)にも新鮮と見られています。でも、旅行商品としては、案内役の育成や安全確保などに課題もあるのです。インフラのある地域や周辺に足をむけさせないと波及効果は限られるのです。
跡見学園女子大学観光コミュニティ学部の篠原靖教授は「民間を巻き込んだ『稼ぐ観光』は、まだ弱いのです」と指摘されています。民間と行政の役割を整理して周辺の施設などと組み合わせて滞在時間を延ばす工夫が、とにかく今、強く求められています。(2023年3月25日の日本経済新聞の1面(江口博文、岩崎高行)を参照引用して記述)。
[まとめ]
この研究報告の執筆で参照引用した2023年3月25日の日本経済新聞1面の記事には二つの図表が記載されていました。①都道府県別のインフラツアー件数、図表1、注5)。」②ツアー件数が上位の自治体、図表2、注6)。
[図表1]
図表1(注5)では、新聞紙上に日本列島の地図が示されており、都道府県別のインフラツアー件数(注4)を、緑色の濃淡で塗り分けて示していました。
ここで、インフラツアー数が最も多い地域は、2022年度11月時点で20件以上の処で、最も濃い黒緑色(黒緑色、斜線入り)で示してありました。このインフラツアー数の最も多いランク1の処は、北海道と広島県の2カ所(1道1県)でした。次いで、インフラツアー数の多いランク2の処は、インフラツアー数が15件以上20件未満の処で、秋田県、山形県、埼玉県、愛媛県、熊本県の5県でした。結局、インフラツアー数の多い地域(ランク1~2)は、合計1道6県(7カ所)でした。
なお、インフラツアーの件数が最も少ない地域(5件未満)は、茨城県、長野県、東京都、神奈川県、山梨県、静岡県、滋賀県、奈良県、大分県、長崎県の1都9県、10カ所でした。その他の26カ所は、インフラツアー件数が中位の処でした。
(注)複数の自治体にまたがる場合はそれぞれカウント。
(2023年3月25日の日本経済新聞の1面(江口博文、岩崎高行)を参照引用して記述)。
[図表2]
図表2(注6)は「ツアー件数が上位の自治体」と題した表でした。この表には、「管理者主催と民間主催の合計」と「民間主催」が示されていました。この表を以下に記します。
図表2 ツアー件数が上位の自治体
管理者主催と民間主催の合計 民間主催
1位 北海道 48件 1位 山形県 6件
2 広島県 24 2 千葉県 5
3 山形県 18 3 新潟県 4
3 愛媛県 18 4 富山県 3
5 熊本県 16 5 熊本県 2
5 埼玉県 16 5 大阪府 2
7 秋田県 15 5 青森県 2
8 大阪府 13 5 岡山県 2
9 新潟県 12 5 愛知県 2
9 岩手県 12 5 岐阜県 2
5 栃木県 2
5 群馬県 2
(注)複数の自治体にまたがる場合は、それぞれカウント。
この図表2を見渡してみますと、以下のことがわかります。管理者主催と民間主催の合計の上位10カ所には、北海道、東北、関東、関西、北陸、中国地方、九州、四国と、日本各地から選ばれていました。すなわち、全国に等しく分散しています。しかし、主催件数では、北海道が突出しています。中部は選ばれていませんでした。
民間主催の12カ所は、東北、関東、中部、関西、北陸、中国地方、九州、四国と北海道を除く各地から選ばれています。全国に等しく分散しています。
(注1)インフラツーリズム(Infrastructure tourism):公共施設すなわちインフラストラクチャーや土木景観を観光資源と位置づけ、実際に現地へ赴き観光旅行する行為を指す和製英語で、多くの関連施設を管理する国土交通省も積極的な利用を奨励しており、政府が推進する訪日外国人旅行増加手段の一つの柱として位置付けている。
(注2) 地域連携DMO(Destination Management/Marketing Organization」:観光地域づくりを持続的戦略的に推進し、牽引する専門性の高い組織・機能。観光地域づくりのまとめ役として、ビジョンの実現のため地域の関係者の合意を得ながら、客観的データを元に責任をもって事業を立案・実行していく組織。
(注4)インフラツアー:管理者が実施するインフラを活用した見学会や、民間旅行会社が企画するツアーなど。
(注5)日本経済新聞2023年3月25日1面)に掲載された図表1「都道府県別のインフラツアー件数(国土交通省まとめ、2022年11月時点)」。
(注6)日本経済新聞2023年3月25日1面)に掲載された図表2、「ツアー件数が上位の自治体、①管理者主催と民間主催の合計。②民間主催」。
[参考資料]
(1)日本経済新聞、2023年3月25日(1面)。
[付記]2023年4月21日。