[日本再生][地域創生]「生物多様性 官民で守る」2024年9月16日 兵庫、コウノトリ育む、戦略策定 自治体1割強
- honchikojisitenji
- 2024年9月19日
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続木 碧(つづき あお) 2024年9月(研究報告№123)
「巻頭の一言」
動植物など生態系の保全を地域活性化につなげようという動きが広がっています。地域ごとに異なる環境を反映した「生物多様性地域戦略(注1)」の策定自治体数は全国の1割強にあたる213に増えました。兵庫県豊岡市はコウノトリの居場所づくりに向けて地元農業者と無農薬米(注2)の栽培を広げ、ブランド商品化にも成功しています。日本経済新聞、2024年8月24日、朝刊、2面記事(森岡聖陽)を参照・引用して記述。
[日本再生][地域創生] 「生物多様性 官民で守る」兵庫、コウノトリ育む、戦略策定 自治体1割強
「日本再生」「地域創生」 「生物多様性 官民で守る」兵庫、コウノトリ育む、戦略策定 自治体1割強
ここでは、日本経済新聞の2024年8月24日、朝刊2面の記事を紹介します。
[はじめに]
世界的な生態系保全に向けて1992年に生物多様性条約(注3)が採択されました。国内の自治体も2008年制定の生物多様性基本法(注4)に基づき、それぞれの実情に合った地域戦略の策定が努力義務となりました。2024年1月時点で全都道府県と166市区町村が策定しました。都道府県別に策定数をみますと東京が最多の27で、愛知が25、兵庫と岐阜が12で続いていました。
[兵庫県・豊岡市]
2024年8月上旬、豊岡市の田んぼを訪ねると2羽のコウノトリがカエルなどのエサを探していました。国の特別天然記念物でもあるコウノトリは、かっては国内各地で見ることができました。しかし、過度な農薬使用などで生息環境が悪化して野生種は姿を消しました。
国内最後の生息地とされる豊岡市は、コウノトリの野生復帰を目指して2003年から農薬の使用を減らした「コウノトリ育むお米(注5)」の栽培を始めました。2013年に作った地域戦略でも、市内の作付面積の半分以上を「環境創造型の農地(注6)」とする目標を掲げました。農業者への啓発活動や栽培技術の向上などを進めたことで、今は35%まで広がっています。
同市内の栽培面積は当初の0.7ヘクタールから500ヘクタールにまで拡大しているのです。無農薬米は通常より面積当たりの収穫量は減りますが、2倍程度の高値で取引されるのです。栽培する田鶴野農事組合法人の村田憲夫組合長も「手間はかかるが収益性は高い」と評価しています。
豊岡市も全国の自治体と同じく農業者の高齢化などの課題を抱えています。関貫久仁郎市長は「環境創造型の農業を志す人たちに技術を教える場も設けており、若手の育成も進めながら『コウノトリ育む農法』を広げたい」としています。
[愛知県]
国連は生物多様性について、話し合う締結国会議(COP)を定期的に開いています。愛知県は2010年のCOP10の開催地となったことが契機になり、地域戦略への関心が高まり、24市町が策定済なのです。県を含めた策定率は45%と全国で最も高いのです。愛知県は40市町村を増やす目標を掲げており、担当者向けセミナーの開催などの支援体制を強化しています。
地域戦略の策定には自治体が、それぞれの環境課題を把握する必要があります。環境省は2030年度に市区町村で3割の策定目標を掲げており、オープンデータを活用して課題発掘などの支援を進めています。
[沖縄県]
沖縄県も生息する生き物の種類や保全の優先度などを細かく示した「環境カルテ」を公開しています。起業などの保全活動に活用してもらうほか、市町村の戦略策定に生かしてもらいたい考えなのです。
[この項のまとめ]
2022年のCOP15では2030年までの目標として、地球上の陸域と海域のそれぞれ30%以上を保全区域にする「30by30」(注7)を盛り込みました。現在の日本の陸地の保全割合は2割程度に止まっています。地域戦略のへの取組みも自治体によってバラツキがあり、14県は策定した市町村がゼロの状態なのです。すなわち、国際目標実現のためにも地域での活動を加速することが欠かせないのです。環境政策に詳しい横浜国立大学の及川敬貴教授は「人口減が進むなか、生物多様性を重視する姿勢は自治体の競争力にもつながってくる」と指摘しています。国が企業や自治体の保全活動を認定する新制度もあるのだから「環境を重視する企業との連携も、より深めていくべきだろう」と同氏は力説しています。2024年8月24日、朝刊、2面記事(森岡聖陽)を参照・引用して記述。
[まとめ]
2022年のCOP15では2030年までの目標として地球上の陸域と海域のそれぞれ30%以上を保全区域にする「30by30(注7)」を盛り込みました。現在の陸地の保全割合は、まだ2割程度に止まっています。地域戦略への取組みも自治体によってバラツキがあり、14県は策定した市町村がゼロなのです。日本も国際目標実現のためにも、地域での活動を加速することが欠かせないのです。
環境政策に詳しい横浜国立大学の及川敬貴教授は「人口減少が進むなか、生物多様性を重視する姿勢は自治体の競争力にもつながる」と指摘しています。国が起業や自治体の保全活動を認定する新制度もあることから「環境を重視する企業との連携などもより深めていくべきだ」と話しています。日本経済新聞、2024年8月24日、朝刊、2面記事(森岡聖陽)を参照・引用して記述。
[図表1]
図表1(注8)については、新聞紙上に日本列島の地図が記載されていました。これは生物多様性地域戦略(注1)を策定した自治体数を示す図表です。出所は、環境省です。これは2020年1月1日時点でのデーターで記しています。
それは以下です。①生物多様性地域戦略を策定した自治体数が20以上の地域(第1群、黒紫色)。②策定した自治体数が2番目に多い値(10~19)のを維持することができた地域(第2群、濃い青紫色の斜線)。➂策定した自治体数が3番目に大きい値(5~9)の地域(第3群、濃い青紫色)。④策定した自治体数が4番目に多い値(2~4)の地域(第4群、淡い紫色の斜線)。⑤策定した自治体数が1に止まった地域(第5群、淡い紫色)。
まず、第1群は、策定自治体を20以上、策定出来た地域です。この第1群に入れたのは、策定自治体数が、全国第1位の東京都と第2位の愛知県(黒紫色で表示)の2カ所だけでした。
続く第2群には、策定自治体数全国第3位の兵庫県・岐阜県と、これに続く埼玉県・鹿児島県の4県(濃い紫色の斜線)が入っていました。
次の第3群は、策定自治体数が5~9のグループ(濃い紫色)です。このグルーブは三番目に多いグループです。このグループに入っていたのは北海道、茨城県、千葉県、神奈川県、静岡県、大阪府、福岡県の7府県でした。
第4群は、このプロジェクトのグループの中で、一番大きいグループです。ここに入っている地域は以下でした。
岩手県、秋田県、宮城県、福島県、新潟県、栃木県、長野県、富山県、石川県、福井県、滋賀県、京都府、三重県、奈良県、岡山県、広島県、大分県、宮崎県、熊本県、沖縄県、徳島県。第4群は21府県でした。
次の第5群は、策定自治体数が1に止まったグループ(淡い紫色)です。この第5群に入っているのは以下の地域でした。
青森県、山形県、群馬県、山梨県、和歌山県、鳥取県、島根県、山口県、佐賀県、長崎県、愛媛県、香川県、高知県。第5群は13県でした。
この図表1を通観していて、私は以下のことを感じました。
第1群は、東京圏と中部圏(名古屋圏)の2大都市圏の代表として、東京都と愛知県が、20以上の自治体が創出されている第一群を形成していました。また、第2群は、東京圏の埼玉県と中部圏の岐阜県に加えて、関西圏の兵庫県が加わり、九州の鹿児島県が追従しています。
この第1群と第2群は、日本国が次世代へ向けた新産業創出事業として最も重視している「生物多様性地域戦略策定事業で、最も重要な事業体です。この中に、九州最南端の鹿児島県が入っているのに、私は注目しています。
そして第3群には、東京圏の神奈川県、千葉県、茨城県に加えて、大阪府と北海道ならびに九州の福岡県が加わっています。結局、1~3群の13都道府県が、このプロジェクトの牽引者であると言うことができると思います。
また、第4群の21府県は、全国各地の牽引者として重要な地域が勢揃いしています。第5群は、今回は策定自治体数が1に止まった地域ですが、過去の私の研究報告では、地域の牽引者として名前が上がっていることも多いのです。2024年8月だけを見てみても以下の4件が見つかりました。高知県(8月5日)。青森県、鳥取県、和歌山県(8月12日)。この「生物多様性地域戦略事業」は、まだ、始まったばかりです。今、第5群に止まっている13県も、これから、どんどん活発化して、プロジェクトを支えてくれるようになると、私は、大いに期待しています。
[図表2]
図表2(注9)は「策定割合が高い都道府県」と題した図表でした。これを以下に記します。
図表2 「策定割合が高い都道府県」
順位 都道府県 策定割合 主な市区町村 図表1の群分け
1 愛知 45.5% 名古屋市、豊田市 1
2 東京 42.9 葛飾区、府中市 1
3 兵庫 28.6 豊岡市、伊丹市 2
4 岐阜 27.9 岐阜市、高山市 2
5 神奈川 26.5 横浜市、川崎市 3
6 鹿児島 22.7 鹿児島市、奄美市 2
7 埼玉 17.2 さいたま市、所沢市 2
8 静岡 16.7 静岡市、浜松市 3
9 千葉 3
10 大分 15.8 豊後大野市、九重町 4
これは、地域ごとに異なる環境を反映した「生物多様性地域戦略(注1)」で定めた「策定自治体」の数の、その地域の全自治体数に対する割合(策定割合)の多い順に並べて、そのベスト10を示したものです。
ここで選ばれた10の都道府県と、図表1で「生物多様性戦略」に基づき、その策定自治体数の多さから定めた第1群~第5群の群分けを、照らし合わせてみました。すると、両者は、殆ど合致していました。これを図表2の原図に付して示しておきました。
これをみますと、以下のことが解りました。図表2をみるとわかるように、「策定割合」の高い都道府県のベスト10図(図表2)の1~9位は、全て、図表1の1~3群で占められていました。すなわち、図表1の第3群の内、北海道、大阪府、茨城県、福岡県の4道府県は、図2のベスト10から外れていました。この4地点は、図表2のベスト10の各地点よりも、地域の自治体に対する選定自治体の割合が小さいのです。北海道、大阪府などは、 地域の総人口が大きいため、「策定割合」は小さく出ると言うことでしょう。
その代わりに大分県が、ただ一つ、図表1の第4群から、このベスト10に入りました。この大分県に、どのような特殊性があるのか、私は調べてみたいと思っています。もう一つ、神奈川県(第3群)も目立ちます。策定割合のベスト10で神奈川県(第3群)は、鹿児島県・埼玉県(第2群)を抜いて、その上にきているのです。ここも、良く調べてみると、何か面白いことがわかると思います。
[図表3]
図表3(注10)は「陸地に占める保護地域の割合」と題した図表でした。この図表の原図の上欄には、左から右へ向けて、0、10、20、30、40、50%と、陸地に占める保護地域の割合の%が列記してありました。この下に横書きの棒線グラフで、世界8カ国の「陸地に占める保護地域の割合(%)」が記してありました。それを説明しやすいように書き直すと以下です。
順位 国名 保護地域の割合
1 ルクセンブルク 50%強
2 ドイツ 40%弱
3 英国 30%弱
フランス 30%弱
5 日本 20%強
6 韓国 20%弱
OECD平均 20%弱
8 米国 10%強
(注)2021年時点の総土地面積に占める保護地域の割合。出所はOECD。
私は、ここで以下の感想を持ちました。世界の代表的な国々の「陸地に占める保護地域の割合」を通観しますと、ルクセンブルクが50%強で、圧倒的なトップです。これを第2位のドイツが40%弱で追っており、さらにこれを、英国とフランスが30%弱で追撃しています。日本は、これに継ぐ5位で20%強です。韓国とOECD平均が、これに続く6位で20%弱でした。そして米国は8位に沈んでおり、10%強でした。
日本は近年、このような、世界の次世代に向けた競争では、成績があまり芳しくないのですが、この「生物多様性地域戦略」の競争では、まずまず、頑張っているなと思いました。日本は、先行するドイツ・英国・フランスと共に、独走するルクセンブルクに迫る体制に、一日も早く持ち込みたいのです。
(注1) 生物多様性地域戦略は、生物の多様性の保全と持続可能な利用に関する基本的な計画であり、生物多様性基本法に基づいて、地方公共団体が策定する。ここでの施策は、農山漁村の保全や農林水産業への影響低減、サプライチェーン全体での取組、生物多様性への理解と行動変容の促進などを含む。
(注2) 無農薬米とは、 農薬を使用せずに栽培をしたお米である。 肥料については特に問われないので化学肥料やその他の肥料は何を使っても無農薬栽培で間違いはないのである。 ただ、表記については、「無農薬米」とは表記できない。
(注3) 生物の多様性に関する条約(生物多様性条約:CBD)」は、個別の野生生物種や、特定地域の生態系に限らず、地球規模の広がりで生物多様性を考え、その保全を目指すことを目的とした国際条約である。また、この条約は、生物多様性の保全だけでなく、さまざまな自然資源の「持続可能な利用」についても明記している。この条約会議で合意された取り決めや目標は、人と自然が共存していく上で欠かせない、地球の生態学的な基盤を守るための公約であり、国際社会と各国の政策における、生物多様性の保全に方針を示すものでもある。
(注4) 生物多様性基本法は、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する施策を総合的・計画的に推進することで、豊かな生物多様性を保全し、その恵みを将来にわたり享受できる自然と共生する社会を実現することを目的としている。平成20年5月に成立し、同年6月に施行された。 この基本法では、生物多様性の保全と利用に関する基本原則、生物多様性国家戦略の策定、白書の作成、国が講ずべき13 の基本的施策など、わが国の生物多様性施策を進めるうえでの基本的な考え方が示されている。また、国だけでなく、地方公共団体、事業者、国民・民間団体の責務、都道府県及び市町村による生物多様性地域戦略の策定の努力義務などが規定されている。
(注5) コウノトリ育むお米は、野生復帰したコウノトリが住みやすい環境作りの一環として作られたお米で、栽培期間中農薬や化学肥料は一切使用していない。
(注6) 環境保全型農業は、農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和を図りつつ、土づくりを通じて化学肥料や農薬の使用による環境負荷を低減する農業の形態である。農林水産省は「みどりの食料システム戦略」を策定し、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立を目指している。
(注7) 地球上の陸域と海域のそれぞれ30%以上を保全区域にする「30by30」: 2010年に採択された「愛知目標」の後継であり2020年以降の生物多様性に関する世界目標となる「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択された。同枠組では、生物多様性の観点から2030年までに陸と海の30%以上を保全する「30by30目標」が主要な目標の一つとして定められたほか、ビジネスにおける生物多様性の主流化等の目標が採択された。30by30(サーティ・バイ・サーティ)とは、2030年までに生物多様性の損失を食い止め、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標です。
(注8) 日本経済新聞2024年8月24日、日経朝刊に記載された図表1、①生物多様性地域戦略を策定した自治体数。出所は環境省。2024年1月1日時点。
(注9) 日本経済新聞2024年8月24日、日経朝刊に記載された図表2、②策定割合が高い都道府県。
(注10)日本経済新聞2024年8月24日、日経朝刊に記載された図表3、③陸地に占める保護地域割合。(注)2021年時点の総土地面積に占める保護地域の割合。出所はOECD。
(1)日本経済新聞、2024年8月24日 朝刊(2面)。
[付記]2024年9月16日:.
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