[日本再生]「地域創生」高専「実践の知」(その2)2022年12月30日 サレジオ工業高専、産学連携推進。自動走行ロボット「D3DV」を製品化。自動運転EV車独自開発]
- honchikojisitenji
- 2022年12月30日
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続木 碧(つづき あお) 2022年12月(研究報告№029)
「地域創生」「高専実践の知」 (その2)
[調査研究報告本文(新聞記事紹介文)]
「地域創生」高専「実践の知」(その2)「サレジオ工業高専、産学連携推進。自動走行ロボット「D3DV」(注1)を製品化。自動運転EV車独自開発」
ここでは日本経済新聞の2022年10月29日39面の記事を紹介します。
[はじめに]
人口が集中する首都圏では、大学などの高等教育機関に占める高等専門学校(高専)の学生(高専生)の人数比率は低い傾向があり、東京都は0.47%、千葉県も0.94%にとどまっています。関東・山梨では神奈川・埼玉・山梨の3県に高専がなく、高専生の比率が最も高い栃木県でも4.17%で全国26位です。それでも、起業者や研究機関、消費地に近い立地を生かして共同開発が広がっています。(参考資料1、2022年10月29日の日本経済新聞の39面(牛山知也)を参照引用して記述)
[東京都町田市]
東京都では、私立のサレジオ工業高専(町田市)が、企業との連携などを積極的に進めています。卒業生は日本を代表する企業で自動車や航空機、医療やエネルギーといった分野の最前線で活躍しています。サレジオ工業高専は、理論の学びに加え、早い段階から手を動かすことが多く、より実践的な取り組みが特徴となっているのです。
2022年3月には、ロボット関連などで接点のあったビット・トレード・ワン(相模原市)と連携し、学生が長期インターンシップや産学連携開発の実施経験をへて、自動走行ロボットキット「D3BV」(注1)を製品化しました。また、試作品製造のアペックス(東京都八王子市)などの企業、在校生や教員、卒業生らの産学共同で、同高専オリジナルの「自動運転EV電気自動車」の開発にも取り組んでいます。
[千葉県木更津市]
関東・山梨で東京の次に高専生の比率が低いのが千葉県です。県内唯一の木更津工業高専(木更津市)で、2022年10月25日、講演会が開かれました。人工知能(AI)による手術支援システムを開発するスタートアップ、Jmeess(ジェイミーズ、同県柏市)を20代で率いる松崎博貴社長の熱い言葉を学生は熱心に聞いていました。
同校は、起業家意識の養成のほか、プログラミングやSTEM(科学、技術、工学、数学)といった分野の教育も重視しています。最も特徴的なのがサイバーセキュリティ(注2)関連です。木更津工業高専は関東甲信越の拠点校として、近年、ますます、重要性が強まっているサイバー防衛の担い手を育てることに力点をおいています。
[栃木県小山市]
北関東は、高専生の比率が比較的高いのです。この地域では高専学生数と教員の層の厚みを生かした活動を、丁寧に実施しています。栃木県小山市の小山工業高専は、学生の出席情報を自動記録し、リアルタイムで共有するサービス「OKpass(オーケーパス)」を、システム開発のムーボン(東京・豊島)と共同でつくり、近く商用化する予定です。開発に携わった教員の実体験をもとに、現場の負担経験を念頭に開発した点が、大学で導入されている既存のシステムとの大きな違いです。
高専などでは、学生が定時に教室にいない場合、教員らが本人や保護者に電話して、安否などを確認する必要がありました。オーケーパスは、学生が専用ウエブサイトで欠席や遅刻を事前に報告できるのです。報告時刻や理由がクラウドで共有され、自動で保護者に通知する機能も備えているため、教職員の負担が軽減されています。
[高専同士の横の連携も、群馬県前橋市+鳥取県米子市]
高専同士の横の連携も広がっています。群馬工業高専(前橋市)などが携わった宇宙関連のプロジェクトでは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のロケットに登載した衛星を、米子工業高専(鳥取県米子市)などと連携して開発しました。群馬工業高専は機械設計や制御装置などの開発を担いました。同高専の担当教授は、群馬県や地元企業と、宇宙分野の部品を大量生産する体制を構築することも協議していると述べています。
[茨城県ひたちなか市]
茨城県ひたちなか市にある茨城工業高専は、2021年度から、学生が地元の企業が抱える課題を解決するインターンシップブログラム(注3)を始めました。それにより、同校学生は地域経済界との結び付きを強めています。2021年度はまず専攻科の2学年を対象に実施しました。さらに2022年度は本科の3年生以上を対象としたプログラムも設けました。
例えば2022年の夏休み期間中に実施した本科生のプログラム「MIPPEプラス(注4)」は44人の学生がグループに分かれ、地元の宿泊事業者、プロスポーツチームの運営会社など6社が抱える課題に対応しました。各社の魅力や強みを分析し、高専生ならではの工学的な視点で、解決策を提案しました。
[高専生の未来にさらなる期待をする]
早い段階からの実践的なプログラムを特徴とする高専は、これまで技術や工学、商船などの分野で活躍する人材を輩出してきました。学びの手段や社会が求めるニーズが多様化、複雑化する中で、現実の課題に直面する企業などとの多様な連携が、より一層重要になるのは確実です。これからの未来社会の構築における高専生の役割は、さらに一層重要なものとなって行くはずです。(参考資料1、2022年10月22日の日本経済新聞の39面(牛山知也)を参照引用して記述)
[まとめ]
この研究報告の執筆で参照引用した2022年10月29日の日本経済新聞39面の記事には、一つの図表が掲載されていました。①関東は高専生の比率が低い傾向に(図表1、注5)。
新聞記事の図表1では、関東での高専生の受け入れの多い自治体(都道府県)が、多い順に8カ所記載されていました。これは全国順位で26位~42位です。
この図表1を見て、私は感じました。1962年に、モノ作り立国を目指して、日本全国の地域の現場を支えることを目標に、活動を進めてきた日本の高等専門学校(高専)は、地方ほど存在感が大きいのです。すなわち、日本の大都市の所在地ほど、高専生の比率は低いのです。
私は、このことを良く認識するため、全国の高専生数比率の最下位から17位までの「逆順位」をつくり図表1に加えてみました。これが以下に示す改定図表1です。
改定図表1 関東は高専生の比率が低い傾向に
全国の順位 関東における順位 全国最下位からの順位 自治体(都道府県) 高専生比率
26位 1位 17位 栃木県 4.17%
29 2 14 群馬県 3.31
32 3 11 茨城県 2.68
38 4 5 千葉県 0.94
39 ― 4 愛知県 0.59
40 ― 3 京都府 0.51
41 5 2 東京都 0.47
42 ― 最下位(1位) 大阪府 0.34
(注記)文部科学省2021年度「学校基本調査」を基に作成。比率は大学の学部、大学院、短期大学、高等専門学校の合計学生に占める高専生の割合。埼玉・神奈川・山梨・滋賀・佐賀の5県には、高専がない。
この改定図表1で見ますと、よく解ります。この表で一番下に書いてある大阪府は、高専生比率が全国最下位です。そして世界の大都市東京都が、実に最下位に次ぐ逆順位の2位でした。3位が京都府で、4位はトヨタ自動車のいる愛知県でした。結局、高専生比率「全国のワースト5」では、関東+山梨8都県が、5カ所中2カ所を占め、高専生比率1%未満でした。残る栃木・群馬・茨城は幾分ましな姿でしたが、やはり高専生比率は5%以下の冴えない状況なのです。さらに、極めつけは、関東+山梨の8都県内にいる神奈川県、埼玉県、山梨県の3県について高専は、いまだに設置にも至らないのです(高専生比率=0)。現在、全国で高専ゼロの自治体は、神奈川県、埼玉県、山梨県、滋賀県・佐賀県の5県のみで、この内、滋賀県は建設中です。
私が、大いに期待していた8都県は、期待していた「高専生比率向上の改革」から見れば、改善計画は事実上「未着手」でした。すなわち、地域に現場直視の工業技術生産を育てることを目指し、早くから日本各地に高専を設置し、力を込めて育ててきたのは大正解でした。でも、時代が大きく変化して来た中で、大都市及び関東+山梨8都県など、時代を牽引していく地域への「そのカンフル剤」の注入は、あまりにも遅れたのです。痛恨の無念です。
今後、迅速に増強しなければならないのは勿論ですが、そのことをこれ以上、ここで議論しても仕方がありません。しかし、この関東+8都県での「高専の活動内容」は、素晴らしいものがあるのです。
[関東+山梨8都県での素晴らしい活動]
本文で紹介した東京都のサレジオ工専は、私立学校ですが、素晴らしい学校です。学校の凄さは、卒業生が何処の企業に就職したかではなく、就職先で、どんな働き方をしているかを見ればわかります。サレジオ工業高専の卒業生は、日本を代表する企業で自動車や航空機、医療やエネルギーといった分野の最前線で活躍しています。サレジオ工業高専は、理論の学びに加え、早い段階から手を動かすことが多く、より実践的な取り組みが、企業に入社してからの活躍の源泉になっているのです。 サレジオは、高専の私立校ですが、私は、この私立校ならではの、自由な空気を持った校風に大きな期待を寄せています。
同校が開発したロボットキットD3BV(注1)は、注目の開発です。この開発で「電子工作」という「新分野」を拓きました。自動走行ロボットを、素人でも作れるという新技術を産み出したのです。
茨城工業高専は、インターンシッププログラム(注3)を生み出しました。就業体験プログラムを、学生みずからが、企業への就職と仕事の体験者である高専の先生と共同で、開発しているのです。このプログラムを経験した学生は、入社後スムーズに社業につくことが出来るでしょう。企業という新しい社会に、容易に馴染めるでしょう。
新卒の新入社員の早期大量退社が、今、大問題になっています。これを解決するのが、今の火急の課題ですが、同校で実施している試みを、一般の大学が、是非、学ぶべきだと私は思います。この難問の早期解決につながります。
また、同校が夏休み期間中に実施している「MIPPEプラス、(注4)」では、地元の宿泊事業者、プロスポーツチーム運営会社など6社が抱える課題に対応し、高専生らしい工学的視点で、解決策を提案していました。
このようなノウハウを年々蓄積して行く同校では、会社に就職してから新組織にすぐ対応できる新入社員を、続々と提供してくれるようになっていくと思われます。これは、わが国の一般の高校・予備校・大学での改革の貴重なモデルになるでしょう。
群馬工業高専と米子工業高専は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のロケットに登載する衛星を開発し、実際に宇宙に旅立たせました。また、群馬高専は、群馬県や地元企業と共同して、宇宙分野の部品を大量生産する体制の構築を、検討するグループに参加しています。これは日本の未来産業での、輸出の経営戦略立案作業です。
ここでは「高専生が、このような先端技術の検討に参加できるようになったのか」と驚くべきではないのです。技術や知識を持っているばかりではなく、「早い段階から手を動かし、現場を知っている存在として、地域の一流専門家にとって高専生が、貴重な存在になっている」ことに驚くべきなのです。
首都圏+山梨8都県の中でも、高専生の存在は、ここにきて急に大きなものとなってきました。ここで、さらに急拡大するだろうと、私は思っています。これに巧く対応できた自治体・企業が急速に伸びて行くでしょう。伸びる地域・伸びる企業、それに伸びるスタートアッブ・個人になれるかどうかは、今、伸びて行っている「高専」の姿・活動を、どれだけ認識して受け入れて、行動していけるか。それぞれ皆の感受性と努力にかかっているのです。今は重要な転換点です。日本・日本人の皆さん、どうか頑張ってください。私も頑張ります。(参考資料1、2022年10月29日の日本経済新聞の39面(牛山知也)を参照して記述)
(注1) ロボットキットD3BV: 「電子工作入門!自動走行ロボットキットD3BV」 は電子工作に習熟したいユーザーのための入門用ロボットキット。サレジオ高専の学生が先生と共同開発したこのキットは、抵抗やコンデンサなどのハンダ付けを行うだけで自動走行するロボットを作ることができる。電子工作: 半導体素子を用いた工作のこと。
(注2) サイバーセキュリティ:技術資産やデータなどのデジタル化された情報を、改ざんや漏洩といった悪意ある攻撃から防御するための手段のこと。
(注3) インターンシップ(internship):特定の職の経験を積むために、企業や組織において労働に従事している期間のこと。 商人・職人のための徒弟制度と似ているが、標準化や監査などはされていないため、指すところの内容は様々である。インターンシップブログラム:就業体験のプログラム。
(注4) プログラム「MIPPEプラス」:正式名は、「地域相互誘起型課題解決実践教育プログラム」です。茨城高専の学生が教員と地域企業の協働を通してお互いに高め合うことを目指した教育プログラムです。このプログラムを通じて、学生は企業の魅力や強みを分析する力、そして企業担当者との協働経験からキャリア意識や社会性を身につけます。また、学生や教員が学校を飛び出し地域企業を訪問することで、地域と茨城高専が相互に理解を深めます。
(注5) 日本経済新聞、2022年10月29日39面に掲載された図表。「①関東は高専生の比率が低い傾向に(図表1,注5)。文部科学省2021年度「学校基本調査」を基に作成。比率は大学の学部、大学院、短期大学、高等専門学校の合計学生に占める高専生の割合。埼玉・神奈川・山梨・滋賀・佐賀の5県には、高専がない。
[参考資料]
(1) 日本経済新聞、2022年10月29日(39面)。
[付記]2022年12月30日。


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