[地域創生]法人住民税575市町村で増収(その1) 2022年11月7日 熊本県合志市 増収4.9倍で実質トップ 北海道更別村 過疎対策へIT集積
- honchikojisitenji
- 2022年11月8日
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続木 碧(つづき あお) 2022年11月(研究報告№010)
☆巻頭の一言
立地企業数などに連動する法人住民税を増やした市町村が増えています。新型ウイルスなどの影響を受け、市町村の税収が低迷する中、柔軟な発想で、多くの市町村が域内経済を活性化させています。
[法人住民税575市町村で増収(その1)]
[調査研究報告本文(新聞記事紹介文)]
[熊本県合志市 増収4.9倍で実質トップ 北海道更別村 過疎対策へIT集積]
ここでは日本経済新聞の2022年8月13日の1面記事を紹介します。
[はじめに]
立地企業数や業積に連動する法人住民税を10年間で増やした市町村が、全国の3割に当たる575に達しました。税制改正や新型コロナウイルスの影響を受け、1143市町村の税収が低迷するなか、従来型の団地整備だけでなく、広大な農地や自然など「地方の弱み」を逆に生かす、柔軟な発想と戦略で企業を呼び込み域内経済を活性化させました。
[全国1718市町村の33%が税収を増やした]
日本経済新聞が、企業が立地自治体に納める法人税の税収を調べました。法人住民税は、資本金と従業員数から出す均等割と、法人税額を基にした法人税割で計算します。2010年度と2020年度の市町村税収を比べると全国平均は、7.2%の減少でした。
一方で直接徴収しない東京23区を除く1718市町村のうち33%が税収を増やしました。
[熊本県]
[税収増加の実質トップは熊本県合志市]
この税収額には、災害復興費が入っており、実は、これが大きいのです。ここでは災害復興の関係の大きいところは除外して考えていきます。そこで災害復旧の影響が大きかった福島県広野町(5.5倍)と同県葛尾(かつらお)村(5.1倍)を除いて実質トップを探しました。実質トップは、熊本県合志市でした。税収を4.9倍に伸ばしていました。
熊本県は、県主導で半導体関連の集積を進めました。1982年に「熊本テクノポリス(注1)建設基本構想」を公表し、推進役を担う財団や技術開発基金などを相次ぎ創設しました。1983年に知事に就任した細川護𤋮県政下で団地開発・誘致を加速しました。
合志市は県と連携して1980年代後半ごろから誘致や地場企業の育成に取り組み、構想の一翼を担いました。団地整備などのハード面に加え、2兆円を上限に、用地取得費の20%を補助するなどソフト面も整備し、興味を持つ企業に担当者が出向き利点をPRしました。結果、人口は12%増え、税収増加分で道路や学校などの整備も進んだのです。隣接する菊陽町にも、2022年に台湾積体電路製造(TSMC)が進出を予定しています。熊本県と合志市は、工場立地の需要がさらに高まるとみて、それぞれ新たな工業団地の造成を目指しています。
しかし、大規模開発を伴う企業誘致は、リスクも伴うのです。1960年代以降「国土の均衡ある発展」として企業は立地の分散化を進めましたが、バブルの崩壊やグローバル化の進展で、縮小・撤退が進み、地域に大きな影響を与えました。このような教訓を基に、ありのままの土地や自然環境で誘致を目指す新たな動きが、今、また生れつつあるのです。このようなとき、過疎指定を受けながら、先端技術を持つ企業の集積を目指し税収を2.8倍にまで増やした北海道更別村の歩みは注目されます。
[北海道]
[過疎指定を受けた北海道更別村。先端技術企業の集積で税収2.8倍に]
過疎指定を受けた北海道更別村は、先端技術を持つ企業の集積で、税収を2.8倍にしました。この取り組みは2016年、4つの台風が相次いで北海道に上陸し、村内の多くの畑が浸水被害を受けたのが切っ掛けでした。
農地を実験場として使えることも利点となり、IT(情報技術)企業など5社が入居する高速通信規格「5G」(注4)などの通信インフラの整備が進みました。そして2021年には、東京大学がサテライトキャンパス(注3)を設けたのです。
西山猛村長が「20年~30年後も豊かで持続可能な村でありたい」と言う熱い思いで進めた「実証フィールドの拠点としてのサテライトオフィス(注2)の整備」が見事に的を射たのです。更別村は、ポストコロナにおいて、今、日本における、さらなる集積の呼び水になることに待望しています。
[北海道ニセコ町、「環境モデル都市」に指定されたのが大きかった。クリーンなイメージに共感して食品関連産業が集積した]
北海道ニセコ町も税収が3.2倍に増えました。外国人旅行者からの高い注目を背景に、観光や不動産関連企業からの税収が大きいのですが、ニセコ町が町庁舎や観光施設の省エネ対策に取り組み、国の「環境モデル都市」の指定を受けたのが大きかったのです。これでクリーンなイメージに共感した食品関連業が集まるようになったのです。
茶専門店を展開するルピシアが工場や本社を構えたほか、八海醸造(新潟県南魚沼市)が2019年にウイスキーの蒸留会社を設立し雇用を創出しました。(参考資料1、2022年8月13日、日本経済新聞(杉本耕太郎、近藤康介、本田幸久)を参照引用して記述)
[まとめ]
この研究報告の執筆で参照引用した、2022年8月13日の日本経済新聞の記事には、二つの図表が掲載されていました。①法人住民税収の都道府県別増減率。(図表1、注5)。②法人住民税収の増加率の高かった自治体(図表2、注6)。
図表1は、この新聞紙上に、日本列島の地図が示してあり、各都道府県別の「法人住民税収の増減率」が赤と青の濃淡で塗り分けてありました。
法人住民税収が増加していたのは4カ所でした。すなわち、増えていたのは宮城県、福島県、東京都、和歌山県でした。税収増は、市町村でみると33%ありましたが、都道府県では、10.4%です。都道府県別にみると増加している処は、まだ少ないのです。
以下は全て減少になります。最も減少率の少ない(0%以上10%未満)地域は、岩手県、山形県、群馬県、千葉県、神奈川県、石川県、京都府、大阪府、島根県、高知県、福岡県、熊本県の12カ所でした。この地域が頑張って増加に転じてくれれば、ここで述べている「法人住民税の増収」に関して日本の未来は、俄かに明るくなります。
図表2には、法人住民税の増加率が高かった自治体を表で記載してありました。以下に示します。
図表2 法人住民税の増加率が高かった自治体
順位 自治体名 税収の増加率 人口の増減率 税収増の要因
1 広野町(福島) 5.5倍 ▲0.1% 災害復興・除染関連で事業所増
2 葛尾村(福島) 5.1 ▲72.6 災害復興・除染関連で事業所増
3 合志市(熊本) 4.9 12.3 半導体関連工場が集積
4 明和町(群馬) 4.8 ▲2.9 凸版印刷などの工場立地
5 大和町(宮城) 4.1 15.6 自動車と半導体の工場が集まる
6 北中城村(沖縄) 4.0 12.7 米軍用跡地にイオンモールなど
11 ニセコ町(北海道) 3.2 5.2 観光や不動産、食品製造企業増
16 更別村(北海道) 2.8 ▲9.2 IT企業など誘致
21 佐那河内村(徳島) 2.5 ▲20.5 風力発電事業者が進出
22 姫島村(大分) 2.4 ▲21.2 三セクの車エビ養殖が下支え
注記 2010年度と2020年度で比較。▲はマイナス。税収は「市町村別決算状況調」、人口は国勢調査から。6位以下は特徴的な自治体を抜粋。(参考資料1、日本経済新聞2022年8月13日から引用)
この表には、税収増加率の大きい順に6カ所。その以下には、特徴的な自治体が抜粋してあります。ここには、本文で記述したニセコ町と更別村のほかに、風力発電の佐那河内村(徳島)と車エビ養殖の姫島村(大分)が示されていました。この両地域は人口が20%以上減っていますが、税収増加率は、きわめて高いのです。この両地域では有効な増収戦略がとれているのです。
この研究報告書を書いて痛感したのは、県知事・村長などの地域リーダーの重要性です。私は、今を去ること39年前の1983年に熊本県知事の座につかれた細川護𤋮氏と、2016年に過疎の指定をうけながら、「20年~30年後も豊かで持続性のある村にしたい」と熱望して、未来に向け熱烈に動いた北海道更別村の西山猛村長に感動しました。
未来を心配している日本各地の住民のみなさんは、首長選挙のとき、20年~30年先の未来のことを、最も熱心に考え激しい情熱をもって行動してくれる人を選ぶと良いのです。そうすると、きっと、20年~30年先の未来の地域に明るい光が射すと思うのです。
(注1)テクノポリス(Technopolis):日本における高度技術集積都市、およびそれを実現するための計画。先端技術産業を中核とした産・学・住が一体となった街づくりを促進し、研究開発施設など各種産業基盤の事業整備等の推進を通じて、地域経済の振興と向上を目指すことを目的としている。
(注2)サテライトオフィス(satellite office): 企業本社や、官公庁・団体の本庁舎・本部から離れた所に設置されたオフィスのこと。本拠を中心としてみた時に、惑星を周回する衛星(サテライト)のように存在するオフィスとの意から命名された。主に2つの意味がある。(1)勤務者が遠隔勤務をできるよう通信設備を整えたオフィス。(2)郊外に立地する企業や学校などの団体が、都心に設置した小規模のオフィス
(注3)サテライトキャンパス: 大学など教育機関の本部から地理的に離れた場所に設置されたキャンパスのこと。予備校・学習塾などでもみられる他、広域通信制高校で本校外の学習センターのことをキャンパスと称する高校もある。サテライトキャンパスの設置場所は、通学者にとって利便性の高い、大都市の都心部(官庁街やオフィス街)、ターミナル駅周辺である場合が多い。ただし、そのような場所の地価は高価であるため、専用のビルなどを新設する例は少なく、商業ビル内に比較的小規模な教室を設ける例が多い。1990年代後半からサテライトキャンパスの設置数は増え始め、現在では全大学の1割がサテライトキャンパスを設置している。
(注4)高速通信規格「5G」(5th Generation Mobile Communication System, 「5G」)とは、1G・2G・3G・4Gに続く国際電気通信連合 (ITU) が定める規定「IMT―2020」を満足する無線通信システムである。
(注5)日本経済新聞、2022年8月13日(1面)に掲載された図表「①法人住民税収の都道府県別増減率。注記、2010年度と2020年度の市町村の合算額で集計。東京23区の合算額を含む。「市町村別決算状況調」などから作成。
(注6)日本経済新聞、2022年8月13日(1面)に掲載された図表「②法人住民税収の増加率の高かった自治体。注記、2010年度と2020年度で比較。▲はマイナス。税収は「市町村別決算状況調」から。6位以下は特徴的な自治体を抜粋。
[参考資料]
(1) 日本経済新聞、2022年8月13日(1面)。
[付記]2022年11月7日。


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