伝統工芸と地域の資源
- honchikojisitenji
- 2023年4月17日
- 読了時間: 3分
更新日:2023年4月22日

木曽に出張です。製材品の市場で木曽ヒノキの製材品の市売りを兼ねた展示会の主催者です。
木曽でお伺いしたのは、小林へぎ板店さん。
木曽の天然林の針葉樹資源を利用してへぎ板を作り、それを材料にして数寄屋造りの家や茶室などに不可欠な網代という建具を作り出しています。へぎ板を作るところから、匠の減少から網代を作るところまで担われています。
木曽には木曽五木として資源保護されてきた天然木があります。木曽ヒノキとして有名なヒノキ、サワラ、アスナロ、ネズコ(クロベとも言います)、コウヤマキです。へぎ板に使われているのは、ネズコとサワラのようです。へぎ板にスギもむいているのですが、スギの資源が少ない木曽では資源の枯渇が早く、現在はこの二種がほとんどと聞きました。でも、ネズコもサワラもいよいよ伐採できるところに生えている天然木がなくなってきているようで、この仕事ももう後が続かないと、店主の小林鶴三さんは仰っておられました。後継者を育てたくても資源がなければ、無責任に弟子を取ることもできないのです。このような伝統的な品物の材料となる天然資源が枯渇している例は枚挙にいとまがありません。都市の需要に応えることで地域の所得を得る山村の重要な現金収入源であったため、資源利用に持続性という客観的な物差しがなかなか当てられてこなかった結果です。
農林水産物の持続性には再生産という要因が必要です。再生産(次の世代を生み出す、植える)を確保できる収益が必要です。そして、このような天然木の場合、再生産できる時間が必要になるのです。丸太の直径40㎠以上の目の込んだネズコは150年以上かけないと得られません。木の若い部分は細胞の配列も揃っておらず、へぎ板を作る際に綺麗に滑らかには割れないのです。また、だからといって刃物で薄くしたものは細胞を切ってしまったり壊しているので、本物のへぎ板としてのツヤが出ないのです。多分、網代をつくったり細工物で曲げたりする際に柔軟な強靭性も出ないのでしょう。本物の価値はそこにあるので、代用品で賄えば済むものでもないのです。資源制約のために技術、工芸美術が成り立たなくなっているのです。(人間の技術で木の成長を何とかすることができれば良いのですが…)
これは山村地域の振興の上でも苦しい先行きです。資源を使えば地域振興できるとは言っても、価値・価格と時間の因子を乗り越えなければなりません。難しいことですが、都市の需用する方、流通を担われる方は、ぜひ持続可能な価値・価格と時間を考えて欲しいと思います。
海外の資源で米マツを使ったへぎ板もありましたが、網代として使うには板が黒くなってしまうのだそうです。そして、天然米マツ自体も資源が少なくなってしまっています。なかなか、天然木資源を世界から持ってくる、というわがままが簡単に通る話ではなくなってきていることも私たちは考えなければなりません。
へぎ板の作り方は次のサイトをご覧になってください。https://teachme.jp/38204/manuals/10349


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